秋に生まれてよかった
6月3日の大統領選挙以来、一度も外出していない。妻は事ある毎に外出を促すのだが、肝心の俺が妻の誘いをことごとく断り続けていたのだ。その最たる理由は「外出するとなれば妻は車椅子、呼吸器、吸引器、吸引用の水と脱脂綿とチューブ、つば対策のタオルとビニール袋、冬であれば防寒用の靴下と腹巻きと上着と毛布を準備することになる。ところがいざ外出しても呼吸困難が起こったりお尻が痛くなったりしてして、慌てて帰宅することが何度もあった。そんな苦労をしなくてもパソコンに繋がれば、意思伝達可能だしネット環境での自由も得られる。つまり、妻の労力の割には外出して得られる満足感が極めて小さい」ことに他ならない。 昨日も外出に誘われたが、移乗を手伝ってくれる男手が不在ということで今日に延期になっていたが、義理の妹家族が遊びに来るということで外出は中止になった。ところが、その訪問が家庭の事情で急遽キャンセルとなった。妻の外出の勧めを断る理由が見つからず準備を始めた妻の軍門に下ることになった。それから一時間後に車椅子に移乗し、それから30分間、自宅にいたまま吸引等で時間が経った。その時点で俺は尻の痛みを感じていた。悪い予感がしたが、今更中止は言い出せない。俺は腹を括り、外出するときを待っていた。長男と長女は外出中、残りの家族四人の散策が始まった。 外は風もなく寒くもなかった。見上げると雲一つない青空で、その高さから空気が澄んでいることが伺い知れた。アパートの前のイチョウの木は落葉を終え、枝だけが天空を刺していた。秋の終わりを連想させる物悲しい風景も青空を背景にすると、新たな生命体が蠢いているように見える。それどころか無機質な電線さえ美しく見える。秋が美しいと言われる理由は澄み切った青空にあるのだろう。秋に生まれてよかったと思った。一行はアパート敷地内の幼稚園を改装してできたコンビニを見物した後、区役所敷地内の公園で日光浴をする。妻は上機嫌で万ウォン札を次男に渡し、「一番高い飲み物を買っておいで。お母さんは要らない」と普段は決して言わないセリフを口にした。俺は日光の正面に座らされまぶしくてしょうがなかったが、薄目を開けて次男と三男がふざけ合う様子を見ていた。 当初はすぐ家に帰る計画だったのだが、更に上機嫌になった妻が「いつものようにぐるっと回って数マートに寄ってから帰ろう」と提案してきた。その...