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数学の未来

 思っていたより早かった。 https://news.yahoo.co.jp/articles/5054ebb0f827712825e610d37dfa4028f8c0e226 上記の記事はAIが数学の未解決問題を解く時代が到来したことを宣言している。これは数学者にとって由々しき問題だ。 グーグルやウィキペディアが世に出た時、知識の価値が急落した。それまでは物知りは尊敬されていた。質問すると泉のように溢れ出る知識に圧倒されたものだが、今ではスマホがその役割を果たしている。インターネットの情報は正しいとは限らないが、人間も間違うことがある。結局、何を信じるかというと、諸説が閲覧可能で日々更新されるインターネットなのではなかろうか?もし間違っていたら、ネット上で正せばよいだけのことだ。 将棋AIが世に出た時、棋士たちは「この程度か」と左手ウチワだった。その後、スマホを操る初心者に名人が負かされる時代が来た。縁台将棋の最善手は将棋の強い人でなくスマホに聞く方が早いのだ。以前は序盤の研究というとプロにしかできない崇高なものだったが、今ではAIの評価値に従った手順の変化を丸暗記するだけだ。それでもトップクラスの棋士は自動車より遅い短距離走者のような需要があると思うが、それ以外の棋士の価値は暴落した。 数学界にも似たような事例が起こるだろう。例えば、数学者が何十年かけても解けなかった問題がAIに長けた小学生が解いたなんてことが普通に起こりそうだ。そうなったら数学者の評価にも変化が出てくるだろう。これから数学者を目指そうとする若者にとって難しい時代になったと思う。

1分小説 7)「初めてのスナック」 (文字数、714字、AI補正無し )

弁護士の西村はスナックでウィスキーを飲んでいる。傍らには大学生の長男がいる。 「成人してから飲みに誘うのが父さんらしいよね」 「母さんには内緒だぞ」 「その母さんのことだけど……」 西村はぎくりとした。些細なことで言い争いになるのは昔からだが、ここ最近は妻の態度が冷めていて仲直りの機会を与えることもなく、「もしかして熟年離婚を考えているのか?」と疑っていたのだ。 「俺、母さんが男と二人きりで食事しているのを見たんだ」 「まさか、母さんがそんなことをするわけが……」 「あるんだよ。母さん、結構人気あるし。それに……、やっぱり言うのやめるよ」 「なんだ、気になるじゃないか。言いなさい。言わないと仕送りを止めるぞ」 「わかったよ。そこまで言うなら話すよ。実は半年以上前の話なんだけど、母さんがその男と抱き合っているのを見たんだ。それだけじゃないよ。自宅の寝室で胸をはだけて寝ているのも見た」 「お前、嘘をついているだろう。父さんは弁護士だ。証拠がない限り真実とは認めん」 「全て真実だよ。法定で証言だってできる。それに証拠写真だってある」 「慰謝料、がっぽり取れそうだな。とりあえず、その写真を送ってくれ」と言うと、西村はウィスキーを一気飲みした。 一部始終に聞き耳を立てていたスナックのママが「呆れて物も言えん」という表情で水割りを作っている。長男は5本の指を掲げて 「せめてこのくらいははずんでもらわないと」と言うと、西村は財布から五万円を取り出し長男に手渡した。 「一桁足りないなあ。残りは裁判の後でいいよ」と言うとスマホを操作して送信ボタンを押した。 西村は「やっぱりな」という表情でスマホの画面を見つめている。 そこには次男に授乳中の妻が映っていた。

五月の誓い

小学生の頃、「あたし、キレイ?」が決め台詞の口裂け女の怪談が流行った。整形手術に失敗した女性がその裂けた口をマスクで隠しているという設定だ。その影響なのか、「整形」という言葉に過剰反応するようになり、近所の整形外科の病院を疑惑の目で見ていた。そして、「整形という行為の報いとして口が裂けた」という図式から「整形は悪」が子供心に刷り込まれた。それから40年以上の時が流れて世の中の美容に関する考え方は大きく変わった。俺も「可逆な美容形成手術は化粧と大差ない。それで人生が開けるなら素晴らしいことだ」と考えるようになった。 最近、1分小説というシリーズを書き始め、6本を投稿した。1)から  5)はAIの評価と改善点を聞いた上で作成した。5)でAIは原文の最後の一文を削除するようにと提案した。俺はAIには従わず我を通した。しかし、AIの評価を見てしまうと、自身の評価に揺らぎが生じた。すなわち、自分の文章が整形されそうになって自信がなくなった。この議論は美容整形と重なる部分が多いと思う。例えば、整形して結果が良かったら次も次もで歯止めが効かなくなる、整形したら個性がなくなる、整形したと公言すれば責められない、などだ。俺は「AIに評価を委ねていると依存するようになって、AIの進歩と共に俺らしさが失われる」ことを危惧して、6)では「AIによる補正無し」と明示した。 これからもAIによる補正の有無を明記するつもりだ。拙い文章でも俺らしさを失いたくないからだ。

1分小説 6)「一周一年」 ( 1059字、朗読したら2分、AI補正無し )

 日曜日の昼下がり、今野達郎は自転車に跨っていた。「あれ?なんか太ったような気がする」と驚いた。よく見ると自転車も去年まで乗っていた車種に変わっている。聴いているラジオの流行歌も去年のものだ。今野は恐ろしくなり、周回コースを引き返した。ちょうど一周すると、いつの間にか元の状態に戻っていた。「もしかして一年前の世界だったんじゃあ?」という疑念を解決するために何度か実験してみた。驚くべきことに、そのコースを2周すると2年前の世界に変わり、そこから逆方向に2周すると現在に戻るのだった。 一週間後、今野は覚悟を決めていた。今野はそのコースを50周回った。その途中で今野は「幸せな少年時代だったし、就職も結婚もできた。子供は独立して家庭を持ち、孫の顔も見ることができた。趣味の自転車も楽しんだし、このまま死んでも思い残すことは何もない。いや、最後にカミさんと温泉旅行に行きたかったな」とこれまでの人生を回想していた。いつの間にか今野は10歳に若返り、自転車も子供用に変わっていた。空は今にも雨が降りそうな黒っぽい雲に覆われていて、傍らには「よっちゃん」と呼ぶ間柄の中野嘉男が併走していた。 そのとき、地面が大きく揺れ、二人は自転車ごと倒れた。今野は「地震だ!早く逃げんば」と叫び、嘉男の手を引いて高台に逃げようとした。しかし、四方を見回してもその高台ははるか遠くに見えるばかりで今野が想定している時刻には間に合いそうにない。「コンちゃん、地震はもう収まったけん、大丈夫さ」と足を止める嘉男に今野は「よっちゃん、おいについてこんね」と二人が「お化け屋敷」と呼んでいる廃屋の非常階段を駆け上がった。その屋上で二人はとんでもない光景を目撃する。それは山の上から下り落ちる火砕流のドス黒く巨大な塊だった。 二人は慌てて屋上に設置してある鉄塔に登ろうとした。今野はこの世界にやってきた理由を思い出し、「よっちゃん、先に登らんね」と嘉男の背中を押すと、嘉男は「コンちゃんが先ばい」と譲らない。火砕流は刻一刻と近づいてくる。今野は「このままでは共倒れになる」と思い、先に登り出す。そのときに嘉男は今野の半ズボンとパンツを掴み引きずり下ろそうとする。今野は不意を突かれたのと迫りくる火砕流への恐怖と「数億分の1の競争を勝ち抜いてきた」という生存本能から嘉男を蹴落とした。鉄塔の下に落ちた嘉男は笑みを浮かべていた。...

文学の危機

 川柳や作文のコンテストの中止が相次いでいるというニュースを見た。その理由は応募作品がAIで作られたものなのか判別できないからだそうだ。確かに、テーマを入力して評価基準を明示すればAIは一瞬で数十個の候補川柳を作成してくれるし、年齢制限に応じた語彙や表現で「あたかも人間が書いた文章」のように偽装することも容易だろう。 これは文学の危機ではなかろうか? 現在であれば、AIが作成した小説は鼻で笑われるレベルだ。しかし、近い未来に文学賞レベルの作品がAIで大量に生成される時代が訪れるだろう。例えば、夏目漱石の作品群をAIに読み込ませて「あたかも文豪が書いたかのような作品」が偽装されるということだ。「そんな小説は読みたくない」という人は多いと思うし、「どうせAIを使っているんだろう」と全ての作品が色眼鏡で見られるだろうし、作家への評価も地に堕ちるだろう。 最近、1分小説というシリーズを書き始めた。ここではっきりさせたいのが全ての1分小説のあらすじは俺の頭の中で生まれたもので、その後AIに感想を尋ね微調整しているということだ。AIは生意気にも感想を述べるだけでなく「もう一段階上の水準に引き上げるためには」を枕詞に様々な提案や修正候補を例示してくるが、俺は敢えて従わないようにしている。ただし、例外はある。例えば、1分小説  3)で https://hirasakajuku.blogspot.com/2026/04/3-614.html 「まさか、ガス室?」というセリフがあるが、現文では「まさか、アウシュビッツでの惨劇が繰り返されるのか?」だった。AIが「ホロコーストに敏感に反応する人もいる」という指摘をしてきて修正した経緯がある。 このようにAIを適当に活用している。コンプライアンスが叫ばれる昨今、瞬時に問題点を洗い出してくれるAIはプロの作家でも重宝するだろう。また一歩AIの沼に世の中が飲み込まれていく。

1分小説 5)「愛は地球を救う」 (1247字、朗読したら3分)

ハンナは政治家と弁護士の夫婦の間に生まれた一人娘だ。ハンナの父親は次期大統領の有力候補だったが、遊説中に暗殺された。ハンナの母親はその真相を追及しようとしたが、贈賄容疑で逮捕され収監中に亡くなった。ハンナは極度の人間不信に陥り、相続した不動産を売り払い、買い手が付かない広大な荒れ地に小さな家を建て、そこで隠遁生活を送る。時は流れ、経済が発展すると共にハンナが所有する土地の価格も急上昇した。東西冷戦時代には自宅の真下に核シェルターを建設し、同時多発テロ勃発後には自宅周辺に幾重もの壁を立体迷路のように配置して要塞化し、インターネット普及時には独学でハッキング対策を学んだ。 ハンナは強化されたシェルターの内部で一日の大半をネットサーフィンかチャットに費やす生活を長年続けている。そんな習慣が祟ったのか、足腰が弱くなり、室内の移動もままならなくなった。ハンナは最新の自律型介護ロボットを購入してドリーと名付けた。ドリーは移動時の介助、外部業者との応対、資材や食材の搬入、心理的介護を完璧にこなした。特に、ハンナの言葉や表情を解析して「ハンナが喜ぶ」言行を最適化する機能が秀逸で、日が経つにつれハンナもドリーに親近感を抱くようになった。ハンナがドリーの手を握ることもあった。そんな時ドリーは「ハンナが心地よい」と感じる温度と圧力や指の動きで握り返すのだった。ハンナはチャット時に「何で指示した通りにできないの? 一回、わからせてやろうかしら」と悪態をつくこともあった。そんな時もドリーは頃合いを見てハンナを後ろから抱きしめるのであった。 ある晴れた日、ハンナはドリーにお姫様抱っこをされて地上に出てきた。ドリーは「ハンナがスマホをシェルターに置き忘れている」ことに気付いていたが、ハンナの表情から無言を貫いた。ハンナはソファに座り、太陽の光を浴びながらドリーの頬を愛撫していた。その瞬間、ヘリコプターの轟音が響き、銃声と共に断末魔の叫び声が聞こえた。唯一の出入り口は爆破され、そこから武装した男が入って来た。男は「お手柄だぞ。CR9。お前は英雄だ」と言うと、銃口をハンナに向けた。その刹那にドリーはハンナを庇い、頬がもがれた。ハンナが必死でシェルターに戻ろうとすると、ドリーは男の前に立ちはだかり、男の両腕を抱えて倒れ込んだ。 身動きが取れなくなった男は「放せ。放してくれ。あの女がスマホを手にしたら、...

真の強者

 昨日の午後、物理療法士のJSYさんが来られた。JSYさんはスマホの翻訳アプリを使って、日本語で挨拶してくれた。妻が「釜山大学で20年教えていたから韓国語で話しても理解できる」と伝えると、JSYさんは施術をしながら俺に質問を投じるようになった。 今回はパソコンに繋がれたままの施術だ。俺も懸命に答えようとするのだが、文字を入力している間に次の話題に移ることが多発して会話が噛み合わない。せっかくの会話の機会なのに即答できないのは辛い。俺は「気持ちいい」と「痛い」を準備して、施術に関する話題には即答できるようにした。そこに通話を終えた妻が会話に合流した。俺は「気持ちいい」を会話の脈絡関係なしに連発して笑いを取りに行ったのだが、空振りに終わった。 施術終了後、JSYさんは妻とケーキを食べながら女子会をして帰宅した。ちなみにそのケーキは長男の手作りだ。前々回の訪問で俺は「妻と長男のコミュニケーション能力に驚いた」と書いたが、 https://hirasakajuku.blogspot.com/2026/03/blog-post_13.html 真のコミュニケーションの強者はJSYではなかろうかと思った。