百泣の王
NHKの番組「ファミリーヒストリー」を視聴した。ゲストは武井壮で、75分に渡って彼の四代前からの家族史を紹介していた。彼が9歳の時に両親が離婚して、11歳の兄と共に父に引き取られ、それ以来、母と会えなくなる。父は愛人の家に入り浸り、兄弟のみでの生活を強いられる。父の事業の失敗で家計は逼迫し、兄は中学卒業後就職する。武井壮は大学に進学して陸上競技に打ち込み、兄は俳優への道を志す。順風満帆に見えたが、兄はガンを患い、24歳で非業の死を遂げる。 妻も最後の15分だけ視聴した。その時間帯に兄が主演した舞台の映像が流れ、番組の主題歌である「Remember」が始まる。母は子供がいることを告げずに再婚、穏やかな人生を送り、去年の12月に亡くなった。感動の再会を期待していたのに残念だと思っていると、妻が「芸能人なんだから自分の息子だとわかっていたはずなのに。連絡してみればいいのに」と突っ込みを入れたところで、主題歌のサビの部分に差し掛かり、再婚相手が「妻の遺品を整理していたらこういうものが」と言って差し出したのが布製の財布に入った武井壮のブロマイドだった。 その瞬間、妻が号泣、俺の涙も止まらない。スタジオにいる武井壮も嗚咽を漏らしていた。番組の演出にまんまとやられてしまった。まさか番組を盛り上げるためのヤラセじゃないよね。そう疑いたくなるほどの見事な演出だった。翌日の再放送で妻はフル視聴、俺も物理療法士の施術の最中にも関わらず同じ場面で涙が出てきた。 ALSの症状の一つに感情の抑制が困難になることがある。感情と筋萎縮とは無関係のように見えるが、不思議なものだ。父の葬式でも祖母の葬式でも鉄面皮を通すのが本来のキャラだということを強調しておく。