紅葉は雲仙で

 紅葉の季節だ。大村市の森林は常緑樹が多いせいか、山全体が赤や黄色に染まるわけではない。そういう山全体の色が変わるような紅葉を見たければ遠出が必要となる。真っ先に思い付くのは雲仙だ。2019年の11月に俺の弟子たちが大村に来てくれた。そのときも「雲仙に行こう」と提案して、8人乗りの自家用車で雲仙に向かった。その眺めは素晴らしく、秋色に染まった樹木が山全体を覆い、夕陽に反射して輝いていた。改めて釜山から時間と自費を費やして来てくれた弟子たちに感謝したい。のみならず、見舞いに来てくれた全ての方々に感謝している。

大村の実家から雲仙の展望台まで高速道路を使っても2時間半はかかる。その日に到着したばかりの客人を車に乗せる距離ではなかった。にも関わらず雲仙行きを提案したのには理由がある。それは「紅葉の時期は雲仙で」という刷り込みがなされてきたからだ。その刷り込みというのは大村高校名物の全校雲仙登山に他ならない。大村高校は進学校だ。11月中旬となれば、受験生にとっては追い込みの時期で、「一寸の光陰軽んずべからず」の世界なのだ。にも関わらず、三年生も全員参加で駆り出される。一見、非合理に見えるが、当の受験生には適度な息抜きになっていた。いや、他はどう思っているか定かではないが、少なくとも俺は適度な息抜きと思っていた。

徒歩で数時間山道を歩き回り、途中で山の稜線が見渡せる絶景スポットに差し掛かる。そこには赤や黄などの単色で表現するのがもったいないほどの樹木それぞれの紅葉の複合体が出現する。それまでの道のりが意味があったと思う、受験勉強を示唆するような光景だ。その高揚感が帰りのバスに持ち込まれ、「もう歩かなくていいんだ」という疲労からの解放感も加味されて、酒類なき宴が始まった。柴田恭平を意識した「行くぜ」という掛け声が爆笑を巻き起こし、「飾りじゃないわよ涙は」というフレーズの後には「ホ、ホー」という大合唱の合いの手が入った。正直な所、人生で最も盛り上がった宴会だった。

その翌日からは受験勉強に明け暮れるストイックな生活が待っている。皆が受験という同じ目標に向かって収束していき、四月以降はそれぞれの進路に発散していく。そんな刹那的な時間を共有してきた級友たちへの思いが募る季節だ。

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