学科長日誌 11)
学科長になったばかりの頃、学科事務室前の廊下を歩いていてあることに気付いた。それは掲示板に他大学の談話会のポスターはあるのに釜山大学数学科のものはないということだ。ウチの学科でも談話会は行われているが、「どの講演者が何日にどんな内容について話すのか」という情報は直前で掲示されるのが慣例だった。それまでは何の疑問も抱かずにいたが、学科長になってからは「これは由々しき事態だ」と思うようになった。その理由は「ウチの学科が対外的にどのように見られているか」を気にするようになったからだ。事情を知らない人がこの掲示板を見たら「釜山大学数学科では学術活動に熱心ではない」という印象を抱くかもしれない。学部生であれば進学先を選ぶ際に負の作用をもたらすかもしれない。
見た目に気を使わないことが潔いと思っていたが、学科の代表となってからは寝癖を直してから通勤するようになったし、猫背気味だった背筋を伸ばして歩くようになったし、人前で耳をほじるのを控えるようになった。学生との準公式の会食でも「俺が酔っぱらうということは数学科が酔っぱらうということだ。お前らそれでもいいのか?」などと言って、深酒しないように気をつけていた。「地位が人を作る」というが、それはそのまま俺に当てはまった。
俺は学科教授会議で「数学科の談話会の日程表を学期始めに公表してポスターを制作する」ことを提案した。他に重要案件があったので、この提案は深く議論されることなく可決された。公認を得た俺は大手を振って予算をポスター制作のために使えるようになった。その代わり、各分野からの講演者の選定を各教員に依頼して日程調整して選定された講演者に確認を取りポスターのデザインを決める作業の全てを俺一人で請け負うことになった。
その一ヶ月後、四月と五月分の談話会の日程を記したポスターが完成した。背景には数学科が入っている建物の写真を用いて表記は英語を原則とした。全国の主要大学にポスターを発送する作業は事務のKYHさんがやってくれた。出来上がったポスターが掲示板に貼られたときは感無量だった。その日以来、能動的に働く喜びに目覚め、学科長の仕事にやりがいを感じるようになった。利害関係が生じない新しい仕事をやれば、「頑張っているな」という印象を与え、その後の学科運営にも正の効果が見込めることがわかったと同時に見た目の重要性に気付いた一件だった。
コメント
コメントを投稿