醬油が甘い
九州の醬油は甘い。その理由は醤油の原液に砂糖を混ぜて製造されるからだ。和食の味付けの基本となる醬油が甘いのだから一品料理も甘くなるのは推して知るべしだろう。実際、酢飯、煮付け、肉じゃがなどの「甘味料がないと成立しない」和食が多数存在する。九州の中でも長崎は料理に砂糖を用いることで有名だ。カステラを始めとする菓子も甘いし、皿うどんのあんも甘辛いし、大村寿司にも大量の砂糖が入っている。それが当たり前だと思っていたので、大村を出る前までは何の疑問も抱かなかった。しかし、福岡で自炊するようになってから「実は自分が暮らした地域が特殊だった」ことに気付き始める。 初めての一人暮らしで初めての自炊だったので、料理はレシピ本通りに作ることになる。出汁を取るのが面倒だったので、洋食中心に作っていた。そのレシピに砂糖が出てくることはなかった。出来上がった料理を食べると「悪くない」と思った。自分で苦労して作った料理だったからかもしれないが、素朴でいい味だと思った。そのときに気付いたことは「口の中がベタベタすることがない」ということで、自炊を重ねるたびに「あのベタベタは砂糖によるものだったんだ」とか「料理って砂糖を一切使わなくてもできるんだ。いや、そっちの方が断然美味しいだろう」という考えが芽生えてきた。 博士号取得後、イスラエル、韓国に長期滞在することになる。日本では甘い炭酸飲料を好んで飲むことはなかったが、イスラエルでは「ハンバーガーにはコーラが合う」というように味覚も変化した。これは湿度の違いもあるだろうが、料理に含まれる糖分量にも関係していると思う。ちなみに韓国料理は日本ほどではないが結構な量の砂糖を用いる。ただし、韓国の玉子焼きは甘くない。 歴史をひも解けば、江戸時代に唯一の海外貿易港だった長崎出島の影響で砂糖が庶民にも流通し、お客さんをもてなすときには砂糖をふんだんに使って料理する文化が定着したことが現代にも受け継がれているらしい。その呪縛から逃れた俺は「砂糖を料理に使うと、一定の満足度は得られるが、素材本来の甘さが砂糖の甘さに負けてしまい単調な味になる」という結論に至った。外に出て気付くことは多い。その一方で「あの甘い醬油に浸して食べるハマチの刺身を味わいたい」とも思う。