京都ALS患者嘱託殺人事件 6)

 「京都ALS患者嘱託殺人事件」という映画が10月31日に公開される。俺とこの映画との関わりを数回に分けて紹介しようと思う。

2026年8月、上記の映画の配給会社からストリーミング再生の案内のメールが来た。俺の家族限定で期限付きの視聴ができるという内容だった。俺は5回見た。妻は「日本語のニュアンスを確認するため」と言って俺以上に見ている。インタビューの内容が濃密で、見るたびに新たな発見があった。

林優里さんはALS患者でありながら一人暮らしを貫き通した。それは本人の意向と介護保険の制度に起因している。要介護の等級が上がると、月ごとに三十数万円の介護費用が一割負担で使える。すなわち、月3万円払えば30万円分のヘルパー費用が国庫から支出される。しかし、無制限にヘルパーを雇えるわけではなく、同居する家族や要介護度に見合った使い方を行政側から指導される。ALS患者の場合、地域の自治体の支援制度を活用すれば、24時間他人介護が可能になる。介護保険と支援制度をフル活用するために、あえて一人暮らしを選択したと推測している。

彼女の父親のインタビューでは彼女の幼少期を懐かしむ言葉が出てきて親子の絆を感じさせる。その一方で、ALS発症後の親子の断絶を匂わせる内容でもあった。彼女のツイートを見る限り、その父親が頻繁に彼女の自宅を訪問していたとは考えにくい。そのインタビューでは彼女の「誰にも頼れないし、誰にも頼りたくない」という孤高な姿勢が強調されているように感じた。

彼女に携わった看護師は主治医にダメ出しする等のぶっちゃけ話をインタビューで連発していた。俺はヘルパーを使わない24時間家族介護なのだが、彼女自身が望んだこととは言え、眠っている時間以外は気心が知れたとは限らない他人に見守られているのは監視されているに近いストレスがあったに違いないと思う。中には彼女を邪険に扱うヘルパーもいたらしいが、代わりが見つからないという理由で甘んずる以外なかったそうだ。

映画の後半は大久保医師に焦点が移る。彼の母は昔ながらの肝っ玉母さんという風情で、率直な受け答えが印象的だった。ただ、どちらかというと繊細で傷つきやすい大久保医師の少年時代と母の教育方針は絶望的に乖離しているような気がした。医者になって社会的に成功したように見えた大久保医師の内面では少年時代からの歪みが増幅されているように見えた。もちろん、事件を起こした後に取ってつけた結果論でしかない。しかし、表面に現れなくても心の闇を抱えた人は少なからず存在していると思う。

大久保医師が主治医だったロシア人女性のインタビューでは「ロシア語の諺で和ませてくれた」と大久保医師を称賛していた。安楽死請負人のドクターキリコは人を救う医者が本業だったという当たり前の事実に気付いた。

大久保医師は裁判で懲役18年の量刑が下され、上告が棄却されたために罪と刑が確定した。自殺幇助まがいの嘱託殺人で18年は重すぎると思っていたが、彼には余罪があった。山本医師の父を山本医師と共謀して毒殺した罪だ。その主犯は精神病を患っていた父を疎ましく思った山本医師だ。大久保医師は自暴自棄になっていたのかもしれない。罪のなすりつけは行われたのか気になるところだ。

妻子がいて服役中の大久保医師を憐れに思った妻が「聖書と手紙を送りたい」と言い出した。二村監督経由で送ろうとしたが、刑務所の規則により手紙は届けられないそうだ。妻は大久保医師の魂が救済されることを本気で願っている。妻の願いが彼に届いて、服役後は成人になっているであろう子女に笑顔で対面してほしいと思う。

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