真夜中の洪水
昨晩、猛烈な暑さを感じ、アヒルを数回鳴らした。妻はその音に反応してくれない。隣の部屋で寝ている長男がやって来て、布団の掛け方を調整してくれた。「まさか長男が起きているとは思わなかった。翌日から開講で朝早いと言っていたのに、深夜に起こして悪いことをしたなあ」と反省していた。その反省はアヒルの呼び出しを禁じ手にした。
前日からの消化不良は一眠りしても健在だ。軽い吐き気を感じた。そうすると目が冴えてきた。「今、何時だろう? 窓が一向に明るくならないことから3時から5時の間だろう」と推測する傍らで妻はすやすやと寝息を立てている。「嗚呼、あと何時間消化不良の不快に耐えなければいけないのだろう? 妻が起きても解決しないからなあ」と思った。
突然、つば吸引が作動しなくなった。この現象はたびたび起こる。チューブ内に粘り気の強い液体が滞留するのが原因だ。それを解消するには誰かが水をチューブ内に流し込まなければならない。その誰かが問題だった。長男の件があってアヒルは鳴らせない。妻はノンレム睡眠真っ最中という感じで熟睡中だ。俺の口の両端からは行き場を無くした唾液が流れ出して延髄の辺りを濡らしている。俺は「妻のいびきが収まり寝返りを打つタイミングで起こそう」と決心した。しかし、妻のいびきは収まらない。それどころかますます大きくなっていく。試しに歯ぎしりを数回鳴らしたが、何の反応もなかった。そのまま一時間ほど経ってからついに運命の瞬間が訪れた。
唾液の洪水となっていることを確認した妻は寝巻きを着せ替え、タオルで俺の上半身を拭いた後、シーツまで交換してくれた。なお、患者を寝たままにしてシーツを交換するのは専門知識を伴う厄介な作業である。その後、俺は眠りにつき、妻も一眠りしたそうだ。妻に頭が上がらない理由がまた一つ増えた夜だった。
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