アルゼンチン対エジプト

 北中米ワールドカップのアルゼンチン対エジプトの試合を次男と観戦した。アルゼンチンはくじ運に恵まれている。グループリーグはオーストリア、アルジェリア、ヨルダンで、決勝トーナメントはカーボベルデ、エジプトの対戦で、「この組み合わせなら日本でも8強進出できる」と思えるほどだ。リバプールのエースであるサラーを擁するエジプトであっても超格下であることは事実だ。俺は試合の勝敗よりも「メッシが何点取るか?」に焦点を当てていた。

前半開始早々、エジプトの圧迫守備がハマってアルゼンチンは守備ラインからのビルドアップができず苦戦を強いられる。その圧迫守備は組織的で、ボールを奪う度に走る意欲が漲っていくように見えた。「エジプトは簡単に屠れる相手ではない。むしろ、押されているのはアルゼンチンでは?」と思っていると、エジプトが先制点を挙げた。その後、メッシがPKを失敗した。次男は「マズい。最悪の事態だ」とアルゼンチンの敗退を心配し始め、枕を腹に抱える体操座りで、「負けたらどうしよう」と不安を口にすることが前半終了まで続いた。

後半に入ると、アルゼンチンは猛攻を仕掛けたが、エジプトの守備はほころびを見せずに「このまま守り切って試合終了」という雰囲気が漂い始めた。すると、見事な堅守速攻が実ってエジプトが追加点を挙げる。残り時間は20分弱、絶対絶命のアルゼンチンと作戦がまんまとハマり勝利が目前に迫ったエジプト、焦りや疲労が見えるアルゼンチンと決して浮足立つことのないエジプト、勝負は決したかのように見えた。頼みのメッシもPK失敗が尾を引いて神通力が失われたように見えた。次男は祈るような体勢で戦況を見つめ、惜しい場面では叫び声を上げていた。そんな中、メッシのクロスをロメロが頭で合わせて一点を返す。次男は拳を握り締め、同点に追いつくという気勢を上げた。流れは完全に逆転した。

再度、メッシがゴール前にクロスを放り込む。ボールはオーバーヘッドキックとラウタロの苦し紛れのタッチを経て、メッシが走り込む時間を作り、メッシが蹴りやすい位置に何者かによって導かれた。メッシから始まった攻撃がメッシで終わった。次男は立ち上がって歓喜に震えている。俺の両目からはありえないことが現実になった時に出てくる液体が流れていた。物語はこれで終わりではなかった。右サイドにフリーで抜け出したアルバレスが一呼吸置いてピンポイントのクロスを上げる。合わせたのはエンツォで、ボールはサイドネットを揺らした。歩いて守備が免除されているメッシの代わりに走り、攻撃時はメッシのフィニッシュをお膳立てしようと努力してきた二人が脚光を浴びたのだ。俺は再び涙ぐんだ。

試合終了後、次男は「ヤバい試合だったね」と言った。サッカーの試合は基本的に退屈なのだが、たまに極上の興奮の歓喜が訪れる。その試合が忘れられず観戦を続けている。真剣勝負のワールドカップ、取り分けメッシを擁するアルゼンチンは名勝負製造機だと思う。

メッシを応援する立場で観戦したが、エジプトを応援する立場であれば「ゴール取り消しになった場面のVARでは遡って反則ということなら逆転ゴールにもVARで追跡するべきではないか?」とか「アルゼンチンの一点目は指一本でオフサイドの判定が変わるのだから、VAR審判が恣意的に証拠画像を書き換えることができるのでは?」とかの疑問が噴出しそうだ。

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