1分小説 3)「天蓋からの光」 ( 614字、朗読したら1分)

 収容所に窓はない。一日二回、天蓋が開き光が差し込む。それは同胞が別の施設に送還される合図でもある。未知の場所に連行される恐怖と暗闇で変化のない生活を送る絶望、どっちもどっちだが、このまま生き長らえるより外の世界を見てから死にたいと思うようになった。

今日も天蓋が開いた。選ばれる予感も覚悟もあった。案の定、荷台のような物に乗せられ、エレベーターのような物で外に出た。白く半透明な覆いのために外の世界はよく見えない。

施設に着いたら、シャワーを浴びるように命じられた。「まさか、ガス室?」と身構えていると、上方から皮膚を突き刺すような液体が降ってきた。「身を清めよ」という指示が出されると同時に同胞たちは互いの背中をこすり合った。大量の垢を含んだ浴槽は排水され、すすぎの水が投下された。照明が消され足元が熱くなってきた。「風呂かあ。粋だねえ」という声が聞こえ、同胞たちは踊り始めた。「風呂にしては熱すぎる」と思っていると、意識が朦朧としてそのまま気を失った。

どれくらいの時間が経ったのだろう? 幽体離脱して見た景色は視界を埋め尽くす同胞たちの死骸だった。悲しみと絶望の果てにその光景を美しいと思う思考が湧いてきた。「地獄に堕ちるぞ」という戒めが頭をかすめる。その向こうには母子の姿がかすかに見える。「啓ちゃん、ご飯大好きだね。アーン」という声が聞こえて、幽体離脱が終了して本体は啓ちゃんの口の中に消えていった。

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