1分小説 2)「初恋の行方」 ( 668字、朗読したら1分強)
「高層マンションにて火災発生。住人の救助に向かえ」
剛は救命隊員、ヘリに乗って上空からロープを使って降下する。黒煙が窓から噴き出している。住人二人から寝室に閉じ込められているとの通報があった。
「あれは香奈の部屋なんじゃ?」
剛と香奈は高校での三年間同じクラスで過ごした。卒業後、剛は消防学校を経て地元の消防署に勤務しながらオレンジの制服を着るという夢を実現させた、香奈は短大進学して銀行に就職し、上司と結婚した。
ずっと好きだった。しかし、香奈が発するSNSを眺めるだけだった。間取りと窓からの景色の写真から住所を特定するのは剛にとって朝飯前だ。それが救助に生かされてる日が来るとは思わなかった。
バルコニーに降り立ち、火元を確認する。
「台所か。ガス漏れの可能性が高い。探知機が作動して消火されるはずなのに…」
剛は消火器を噴霧しながら前進し寝室の扉を開けた。そこには男女が倒れていた。剛は香奈を肩に乗せ運搬し、ヘリで降下して来た隊員に香奈を預けた。意識を取り戻した香奈は頭を下げた。
「防毒マスクを装着しているから俺とはわからんだろう。さて、旦那をどうするかな?」
再び寝室に入った剛は生殺与奪の権利を手にしていた。事故に見せかけて見殺しにしても咎める者は誰もいない。霊前に花を供えて、香奈に正体を明かし交際が始まるというのも無きにしも非ずだ。
その瞬間、男の携帯電話が鳴った。剛は我に返った。
剛は男を肩に乗せ、スマホの通話ボタンを押した。
「玄関から逃げて。お願い」
香奈の声だった。上空からでも電波は繋がる。
剛は男を救助した。
自身もヘリから垂れる蜘蛛の糸に乗り移ろうとしたとき、バックドラフトが起こった。
剛は病室で目覚めた。
見舞いに来た上官が「九死に一生を得たな」と言った。
「あの、夫婦の命は?」
「夫婦? 奴らは不倫関係だよ。夫が来て修羅場になったそうだ」
剛の初恋は終わりを告げた。
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