温泉巡りの旅 2)釜山、虚心庁
釜山広域市の地下鉄温泉場駅から徒歩5分の位置にある虚心庁は日本で言うところのスーパー銭湯のような巨大浴場施設だ。その近所に温泉が湧く小規模の銭湯がある。その泉質をどのくらい希釈しているのか定かではないが、虚心庁でもれっきとした温泉だと言うことだ。温泉と思って入浴すると物足りないと感じるが、虚心庁の魅力はそれだけに留まらない。今回は俺の視点から虚心庁の快適性を伝えたい。
虚心庁は温泉場地区の最高級宿泊施設である農心ホテルと通路で連結されている。農心ホテルは釜山大学と提携していて、釜山大学教職員が予約すれば宿泊客が一般人でも割引価格が適用される。そのために農心ホテルに出入りすることが多く、虚心庁に同行することもしばしばあった。そんなわけで俺が教員だった頃は年に四五回は通っていた。それは付き合いだけでなく、純粋に自分がくつろぎたいがために通っていた。農心ホテルではプロ野球選手の集団と遭遇することもしばしばで、そのたびに「戦いの疲れを虚心庁で癒しているんだろうな」と想像を膨らませていた。
虚心庁のエントランスにはコインロッカー式の下駄箱が設置されていて、施錠して引き抜いた鍵でチェックインする仕組になっている。フロントで衣服用の電子錠と下駄箱の鍵を交換してからの入場となる。衣服を脱ぎ、衣服と荷物を個人用のロッカーに入れて施錠した後、電子錠のみを手首に結びつけた格好で大浴場に向かう。日本ではタオルで局部を隠して移動するが、韓国ではそういう人を見たことがない。この辺りは日韓の入浴文化の違いが如実に現れていて非常に興味深い。大浴場では体を洗うためのシャワーが多数設置されている。そこにはアカスリ用のタオルが山積みされていて自由に使える。使用後は回収用の箱に入れることになっていて、日本のようにタオルを湯舟に持ち込んだりしないようだ。大浴場の周辺には、打たせ湯、サウナ、ジャグジー、赤土湯、露天風呂、ビーチ用ロッキングチェアーなどが設置されていて、ありとあらゆる種類の要望に応えるほどの充実度を誇る。個人的に四十肩を患っていたとき、4mの高さからこれでもかという水量で落ちてくる打たせ湯に大変お世話になった。厳冬の時期の露天風呂もまたおつなものだ。
これで終わらないのも日韓の違いの一つだ。大浴場出口には体を乾かすためのタオルが山積みされていて、用が済んだら回収箱に入れることになっていて、同じく山積みされている衣服を纏い、チンジルバンの階に移動する。チンジルバンとは石をドーム状に配した遠赤外線で全身を温める施設のことで、その階には、設定温度が異なる複数のチンジルバン、氷の部屋、安眠部屋、森林浴部屋、各種の飲食店、エステ店があって、その他の空間の床は石のような素材が敷かれていて、床暖房が効いている。前述の電子錠で注文することができて、チェックアウト時に決済するシステムになっている。喉が乾くし、入浴にもエネルギーを消費するので、「外より少々高いな」と思いつつもついつい散財してしまう。子供連れの時は尚更である。よくできたビジネスモデルだなと感心する。日韓の最大の違いは「このチンジルバンの階は男女供用だ」という驚くべき事実である。日本では「スッピンの顔を男性に見られたくない」という理由からか男女供用スペースは女性側から拒絶されそうだ。日本人の目にはこの老若男女が集いくつろいでいる光景が画期的に映るはずだ。韓国ではそういうチンジルバンが生み出す交流は文化として根付いていて、ごく当たり前の光景だ。日本の砂蒸し風呂がそれに近いが、一般に定着しているとは言えないだろう。このように日韓の文化の違いについてあれこれ思いを巡らすのも楽しみの一つである。
チンジルバンでかいた汗は大浴場で流せばいい。どこまでも合理的にできているものだ。
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