不眠症事始め

 学生時代に大学の健康相談室を訪ねたことがある。俺が白衣を着た職員の方に

「不眠症ではないかと心配になってきました」

「どのくらいの頻度で眠れないのですか?」

「昨晩、寝床に入っても目が冴えて朝まで眠れなかったんですよ。こんなこと初めてで怖くなっちゃったんです」

「……は、初めて。ということは昨日だけ?」

俺にとっては切実な悩みだったのだが、今考えるとその職員は大いに呆れていたことだろう。何事も初めての時は不安になるものだ。


時を経て、ALSに罹患して体が動かなくなって夜が怖くなった。周りが寝静まっているのに自分だけ覚醒している。寝返りもできないし、トイレにも行けない。横の寝台でいびきをかいて熟睡している妻を起こすのも気が引ける。「夜が明けるまで何時間待たなきゃいけないのだろうか?」と思い始めると余計に不安が募った。


慣れとは恐ろしいもので、眠れないのが当たり前になったら夜が怖くなくなった。仰向けの姿勢で寝られるようになったのも大きな変化だ。耳の痛みで目覚めることがなくなったし、寝返りの必要もなくなった。たまに痰が詰まって息苦しくなることもあるが、歯ぎしりとアヒルの二重奏で誰かが助けに来てくれるという安心感が心の余裕をもたらしている。


現在の境地に至ったのは夜中に何度も起こすことがあっても愚痴一つ言わずに助けてくれる家族、特に妻のおかげだ。眠れない夜にそんなことを考えた。


追伸)豊昇龍の勝負強さに恐れ入った。叔父さんの朝青龍に似てきたなあ。


追追伸)検察出身のユン大統領が起訴された。「溺れた犬は棒で突つけ」ということなのだろうか。誰か解説してほしい。

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