史上最悪のテロ事件
午後3時、俺は冷房の効いた作業部屋でパソコンに向かっていた。妻は外出する準備をしている。そんな平和な家庭の雰囲気を吹き飛ばす平坂家史上最悪のテロ事件が数秒後に起こるのである。
実行犯は家の構造を熟知していた。俺が作業部屋に一人でいるのを見計らって侵入、即座に内鍵をかけ、作業部屋勝手口にも鍵をかけた。無抵抗の俺を人質に取り、ガラス扉の向こうで暑さにうだりながら「開けろ」と叫ぶ警察官を嘲笑うかのように実行犯は腕組みをして仁王立ちしていた。
俺も絞り出すような声で、
「頼むから開けてくれ」と懇願するが、聞き入れてもらえるはずもなく、鼻糞を擦り付けられるという屈辱さえ味わった。
警察官はガラス越しに必死の形相で実行犯との交渉を始めた。
「5秒以内に開けなさい。じゃなければ厳罰を受けることになる」
それを聞いて怖気づいたのか実行犯はやや青ざめた表情で
「叩かなかったら開けてやる」と言った。
その時、南側の窓から潜入した特殊部隊が現れる。扉の内鍵は解除され、警察官が立ち入る。それを見るや否や実行犯は勝手口からの逃走を試みる。しかし、怒りに燃えた警察官が実行犯を拘束した。
作業部屋に連行された実行犯はむち打ちの刑に処され、ありったけの声量で
「わーん、わーん」と泣き叫び続けた。
一方の俺は、まるで映画のようなスリリングな展開の一部始終が頭に蘇り続け、しばらくの間笑いを止めることが出来なかった。
ちなみに実行犯は三男で、警察官は妻、特殊部隊は長女である
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