学科長日誌 6)

俺は学生と交流していた方だと思う。講義も双方向型で学生とのやりとりを楽しんでいたし、講義後は自動販売機の前でコーヒーを飲みながら学生たちの反応を調査していた。恒例の新入生歓迎行事である一泊二日の合宿も山登り遠足もほぼ皆勤で参加していた。年ごとに学部生三人の自主ゼミを主宰していたし、数学科サッカーサークルの顧問で練習や試合にも参加していたし、学科長の任期を終えた後には新設の数学サークルの顧問も務めていた。

その交流を通してわかったことがある。釜山大学数学科は企業で活躍できる人材の宝庫だということだ。様々な個性が混在しているが、総じて礼儀正しい。約20年の在籍期間で酒に酔って暴れたり暴言を吐いたりする学生を見た試しがない。韓国特有の儒教思想とも関係しているのかもしれないが、長幼の序を逸脱しない範囲で場を盛り上げるのが非常に上手い。歌や司会でプロ顔負けの技量を持つ者も多かった。経理ではなく営業畑で活躍しそうな学生がうじゃうじゃいた。

だのに何故就職率40%なのか?俺は統計学科の学科長だったSKT教授に統計学科の就職を促す取り組みに関して根掘り葉掘り聞き出すことにした。それでわかったことは統計学科では企業関係者と卒業生を講師として招いた合宿を開催していて学生も教員もほぼ全員参加になるほど力を入れている、普段から企業との繋がりを大事にして企業の需要に応える人材を育成している等の、研究者を育成することを主眼に置いた数学科の教育課程とは一線を画すものばかりだった。そうは言っても、わずか数%の優秀な学生のために数学科があるのではないし、その優秀な学生であっても研究者として大学で定職を得る可能性は低い時代なのだ。俺の同級生がそうだったように「高校の数学は楽しかったけど、大学での数学はもうこりごり」という学生を大量に生み出しているのではなかろうかという疑問が湧いてきた。

やるべきことは二つ、米国で数学科の学生がIT企業に引き手数多という状況を韓国でも創り出すことと数学科の学生にそんな時代が到来することを信じて就職のための意識を高めることだ。前者は一個人でできることではないが、後者は十分可能だ。このようにして俺の学科長としての中長期目標が定まった。

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