学科長日誌 5)
学科長になって間もなくの頃、事務のKYHさんに頼んで昨年度の予算執行に関する資料の要約を作成してもらった。その内訳はコピー用紙やプリンターのインクなどの資材購入費と施設管理費と新入生歓迎や遠足などの行事のための費用と会議費だった。そのうち学科長の権限が反映されるのは会議費のみで残りは毎年自動的に算出されるという説明を受けた。俺は監査役になったつもりで不審な点を指摘して「甘く見てはならない上司」を演出しようとしたが、時間の無駄だと言うことがわかりその目論見は頓挫した。
余計な仕事を押し付けた仕返しということでもないだろうが、直後にKYHさんから学科の中長期計画を提出という宿題をもらった。俺は数学科の教員の中で最年少だった。書類作成の雑用は外国人である俺には回されず他の若手教員が俺の代わりにやることが常態化していた。そんな状況でA4用紙二枚分の作文を頼むことはできなかった。「一人で作成するしかない。それを学科教授会議にかけて承認してもらおう」と考えた俺はKYHさんに頼んで過去の中長期計画を見せてもらった。そこに共通して挙げられていた課題が就職率の向上だった。またしてもKYHさんに頼んで過去の数学科の学部生の進路を出力してもらった。
それを見て驚いた。なんと就職率は40%前後で、一学年約50名の卒業生のうち15名が大学院進学、わずか5名が企業に就職、残りの30名は家庭教師や公務員試験準備などの公的な進路が定まってない状態で卒業していく。日本の大学の90%前後という就職率が当たり前だと思っていた俺にとっては衝撃の事実だった。どうしてこんなことになってしまったのか俺なりに分析してみた。
1)数学科だけでなく他の自然科学大学の学科の就職率もまた60%以下で低迷している。一般的に工学大学や商科大学などの一部を除いた学科の就職率は低い。これは釜山大学だけでなく全ての地方大学が抱える問題で、偏差値的な意味でのソウル一極集中の要因となっている。
2)数学科には教員を目指して数学教育科に行けなくて数学科に来る学生が多かった。その一方で就職を念頭に置いた学生は統計学科に行く傾向がある。その結果として数学科に来る学生は就職意識が低い。
3)「何歳までにはどこそこにいなきゃいけない」という制約が日本ほど強くないので、新卒でなくとも採用される。そのために「妥協して待遇の悪い企業で働くよりも一年浪人して資格や語学などのスキルを上げてから再挑戦しよう」という人が増えてきた。
4)釜山地域では釜山大学数学科は家庭教師業界においてのブランドなので、楽に稼げる。
そのことで悩んでいる俺の頭の中に「順番が回って来たから仕方なく学科長をやっている」とは全く違う何かがふつふつと湧いてきた。
追伸)昨日、OSM博士が見舞いに来てくれた。ありがたいことである。
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