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リンパ腺マッサージ

 キムじユ、二十歳に改名 午後3時に物理療法士の方が来た。前回と同じ方だったので、妻に以下の投稿を翻訳してもらってその方の名前を聞くことができた。 https://hirasakajuku.blogspot.com/2025/06/blog-post_17.html   備忘のために書いておこう。その方の名前はKJY で、二十歳の時に改名した名前だそうだ。韓国では改名はよくあることではないが、特別に珍しいことでもない。生成AIによると年間14万人が改名しているらしい。ちなみに韓国では結婚しても姓は変わらないの。 脚の筋肉をほぐすマッサージから始まった。左脚のあちこちに痛みが走り、「やはり左脚は全力でアヒルを蹴る動作を遂行しているんだ」と思った。 前回のリクエスト通り両脇のリンパ腺マッサージが始まった。これが最高に気持ちよかった。凝り固まったリンパ腺が柔らかくなるような感覚だった。次回の訪問が待ち遠しい。 マッサージを受けている間、傍らには妻がいてKJY 先生のマッサージの方法を学んでいた。驚いたのが二人の会話だ。世間話から始まってプライベートの話までわずか50分の間に友人同士のような関係性を構築していた。これは共感力が高いと言われる女性同士だからか、あるいは、人間同士の距離が近いと言われる韓国人だからか、あるいは、明るくオープンマインドな二人の人格が共鳴し合った結果なのか、そのいずれにも該当しない俺には摩訶不思議な現象だった。 二人の会話が俺と妻の馴れ初めに推移し、俺にイエスかノーでは答えにくい問いが投げかけられた。俺は「待ってました」とばかりに準備しておいた機械音声で「便秘に良いマッサージを教えてください」と入力して話を逸らした。

海外放浪記 11)

 これまでの海外旅行や海外出張を古い順に並べてみた。なお、前回は次の通り。 https://hirasakajuku.blogspot.com/2025/05/10.html   11)イスラエル、カエサリア。1999年7月。日本に住んでいたが、無職の研究生で金にも困っていた。それなのによく大枚を叩いて呼ばれもしない場所に行く決断をしたのか謎のままだ。合宿形式の集中講義を受講して、下宿していた家の大家さんに会いに行った。大家さんは「あなたが残した置手紙には心を動かされた」と言ってくれた。拙い英語でも思いを伝えることができることがわかり自信になったし嬉しかった。下宿にはイタリアからの留学生であるジャコモが滞在していた。ジャコモは英語もヘブライ語も堪能で社交的だった。大家さんともヘブライ語で会話していたし、料理などの家事も分担している様子だった。その日の夕食はジャコモがリーダーとなって3人で作ったニョッキだった。俺にとっては初めて住んだ外国で下宿先にはいろいろな思い入れがあるのに大家さんにとっての俺はゲストの一人にすぎないという当たり前すぎる現実を突きつけられて我に返った。 M教授夫妻と食事した翌日にイスラエルを発ってパリに向かった。二泊三日のトランジットを利用してパリ観光を楽しんだ。エッフェル塔、ルーブル美術館、ピカソ美術館を観覧した。円が強い時代だったので物価に臆することなく食べ歩きを楽しむことができた。ただのバケットサンドでも信じられない美味しさだった。夕暮れ時にオープンカフェでエスプレッソを注文して苦虫を噛み潰したような表情を作ってすすった。なぜなら周りのフランス人もそうしていたからだ。空港に向かう地下鉄でスーツケースを持った老夫婦に立っていた。ある駅で停車している時に事件は起こった。老夫婦のスーツケースが何者かによって車両外に持ち出された。自動扉が閉まる直前の出来事だったので老夫婦はなす術がなく途方に暮れるだけだった。「酷いことをするなあ」と憤ったが、老夫婦に対してできることは何もなく空回りした正義感が未だに記憶させている。 帰りの経由地の香港でも一泊二日のトランジットを設定していた。ここで人生初のキャンプ以外の野宿を体験することになる。その詳細は以下のリンクに記されている。 https://hirasakajuku.blogspot.com...

泳げる、それが何?

 ウチの子供たちが通った小学校にはプールがないし、水泳の授業もない。中学校、高校も同様だ。スイミングスクールに通わせることもなかった。そのせいでウチの子供たちは25メートルさえ泳げない。それでもウォーターワールドという大規模プールに行ったり、海水浴にも行く。ただし、足がつかない場所には行かないし、救命胴衣着用が基本だ。妻も泳げないからこそ子供たちの安全対策を徹底していた。 俺は小学校と中学校で水泳の授業を受けたおかげで足がつかない場所でも平泳ぎで浮くことができたし、クロールなら50メートルは泳げた。だからこそ救命胴衣を着用するなんて発想すらなかった。海では遊泳可能区域を示すブイまで泳いだし、監視員がいない入り江でも平気で泳いでいた。川遊びは実家の近くの郡川を皮切りに水量が桁違いの球磨川まで今振り返ると「よく無事だったなあ」と思うほど命知らずな遊び方をしていた。 日韓両国の水泳文化を直接的または間接的に体験して思うことは「水難事故を防ぐために必要だと信じていた日本の水泳教育は水に対する過信を生んでいるのではないか?」という疑念だ。川下りの船を操る船頭だけが死亡して、救命胴衣を着用していた乗客は無事だった事件はその疑念を裏付ける事件の一つだろう。 水泳が出来るが故に海や川で水遊びしたいという欲求には抗い難いものがあるのだろう。猛暑日が続く昨今では尚更だ。水難事故のニュースを見るたびに、幼い命を奪われた親の無念さを想像するとやりきれない気持ちになる。

韓国の入試制度

 6月21日に韓国の釜山で痛ましい事件が起きた。3名の女子高校生が飛び降り自殺した。見つかった遺書には学業のストレスと進路への不安が綴られていた。高三の娘を持つ親としては他人事とは思えない事件だ。実際、長女が泣きながら高校の課題の多さを妻に訴えたことがあった。そのときは妻が「そんな事を気にするのはおかしい」みたいなことを言って長女の怒りの炎に油を注いでいた。長女の訴えは韓国の受験制度を知らないと理解できないと思うので、以下で簡単に説明しておく。 日本のテレビでもよく出てくるのが韓国の修学能力試験 (スヌンと呼ばれる) 当日の光景だ。それは日本の共通テストに該当する一発勝負の試験で、その成否で合格可能な大学と学科が決まると思われがちだが、話はそう単純ではない。韓国には正規入試、随時入試、論述の3つの選考がある。正規入試は高校の内申書とは無関係の選考で、スヌンのみの成績で合否が決定される。随時入試は高校の内申書と成績に依存するが、大学ごとにスヌンの最低基準点が設定されている。論述は大学ごとに出題する記述型の試験を課して内申書との総合点で合否が決まる。3つの選考の定員は大学ごとに異なるが、人気が高い大学ほど正規入試の割合が増える傾向がある。日本の入試制度と大きく異なるのが推薦入試とも言える随時入試の割合の高さで、全大学の平均が約75%らしい。この制度は「高校での成績が重要」「高校の授業を疎かにできない」「高校教師の権威と権力の増大」を意味しており、このことは講受験科目に偏りがちな高校教育を是正する効果がある一方で、スヌンの勉強に集中したい生徒には不必要な負担を強いることを意味する。 長女は高二の秋に正規入試一本で受験に臨むことを宣言した。長女の訴えの詳細は「スヌンまで半年を切っている時期にグループ評価という一人がサボったら友達に迷惑がかかるような評価方法はおかしい。他の高校ではもっとテキトーにやってるのに」というものだ。 飛び降り自殺のニュースの後、妻は「私らの時代とは完全に違う。ストレスを受けている生徒たちが可哀想」と長女が置かれている状況に対する不満に理解を示した。 「お前の考えはどうなんだ?」という声が聞こえて来ないだろうが、もし来たら「俺はいつだって長女の味方だ」と答えることにしている。

萎縮する排泄

今日は便秘の4日目である。筋萎縮は排泄を司る筋肉にも襲いかかる。この事実は全てのALS患者が避けては通れない問題だ。下の世話を誰かに委ねるというのは、人間の尊厳に関わる、状況によっては「人工呼吸器による延命を拒否する」ほど深刻な問題なのだ。俺は気管切開して延命する道を選択した。それは排泄の問題にも正面から向き合うということだ。そのことを宣言するつもりで書いたのが以下の心野動記からのシングルカットである。  「 おかしい、ここ4日間、何の音沙汰もないぞ」 これは便秘の話である。しかし、今回は気持ちに余裕があった。前回で猛威をふるった下剤も残っているし、最悪の場合はそれを使用して、楽になればいいという読みがあったからである。後遺症の下痢を心配した妻は乳酸菌やすりリンゴを食べさせて最終兵器の使用に抗った。しかし、苦労して車椅子から便器までの移乗を繰り返しても空振りばかりの俺の状況に根負けし、おむつを着用した上での下剤の使用に踏み切った。 「これで心のモヤモヤから解放される」という淡い期待を抱き、下剤が直腸に到達する瞬間を寝床で横になって待った。これは5日目の夕方の話である。おならも出るし、腸が動いているのを感じるし、希望を膨らませ、期待値が最大になった時、妻を呼び、便器に直行した。 「おかしい。出るのはおならばかりで、必要なモーメントが一向に訪れない」 「そうか、以前、泉さんが『下剤は効く時間が読めない』と言っていたぞ」 「少し待てば、来るべき世界がやって来るさ。止まない雨はないさ」と心に言い聞かせ、トイレを後にした。しかし、心の動揺は隠せない。急に食欲がなくなり、便秘のことで頭がいっぱいになり、憂鬱になった。 その晩、下剤を服用し何もないまま朝を迎え、更に下剤を服用するも、まるで気配を感じないし、空振り三振の山を築くだけであった。これは6日目の昼の話である。 「どうするんだ。もうすぐで一週間だぞ。この焦燥感は一体何なんだ」 「治療してくれる病院はあるのか?」 「薬が効かないってことがあるのか?」 「たかがうんこでここまで悩むことになるとは!」 「死んだ方がましだ」のように心を病みながら時だけが過ぎていった。 事態を重く見た妻は俺を病院に連れて行くことを決断する。 助手席に乗せられた俺はさめざめと泣いた。 「自分が情けない」 「俺のために妻は身動きが取れず、休まる...

NBAファイナルゲーム7

 NBAファイナルゲーム7の生中継を視聴した。ちなみにNBAとはNational Basketball Association の略語で、そのファイナルとはレギュラーシーズンの成績で選抜された16チームが争う1ヶ月半に渡るトーナメントの決勝戦のことで、4戦先勝が優勝の条件なので、このゲームの勝敗で優勝が決まる大一番である。 下馬評は圧倒的な勝率でレギュラーシーズンを終えたオクラホマシティサンダーの圧勝で、対戦相手のインディアナペイサーズはエースのハリバートンの勝負所での活躍でゲーム7まで漕ぎ着けるも右足に負傷を抱えていることと会場がサンダーのホームということからペイサーズの不利が囁かれている。 試合は第1クォーターから厳しい守備合戦で、ハリバートンの3本のスリーポイントシュートでサンダーの守備に脅威を与えた。サンダーのエースのシェイギルガスアレクサンダー( SGA と呼ばれている) はレギュラーシーズンのMVPらしい活躍で名勝負を予感させる展開だった。 第2クォーターが始まってすぐの出来事だった。ハリバートンにボールが渡る瞬間に脚を組み換えようとした。その着地の衝撃に右足が耐えきれず前のめりに倒れこんだ。その直後にハリバートンが手のひらで床を叩き事態の深刻さを伺わせた。彼は両脇を支えられて退場してコートに戻ってくることはなかった。 長距離砲を失ったペイサーズが瓦解するのは時間の問題と思われた。しかし、突き放そうとするサンダーのスリーポイントシュートはことごとく外れ、逆にペイサーズのそれは高確率で入った。スコアは拮抗していて「このまま終盤まで接戦が続いたらゲーム1の再現もあるかも」というホームアリーナを埋め尽くすサンダーのファンに不穏な空気が漂った。頼みのSGAのシュートも入らない。一方のペイサーズはハリバートンの代役で入ったマコーネルの奮闘とシアカムのマルチな活躍とターナーのスリーポイントシュートで前半を一点リードで終える。 第3クォーター中盤まで接戦が続いた。拮抗を破ったのはサンダーのジェイレンウィリアムスのラインから遠く離れたスリーポイントシュートだった。空気を読まない彼の積極性はチームに忘れていた推進力をもたらした。得意の「相手のボール保持者をサイドに追い込んで苦しまぎれに出した縦パスをスティールする」というチーム戦術が決まり始め、SGAのプレイもキレ...

やる気がない妻

 昨日の夕方は俺と妻だけが家にいた。「あなたはなんでも美味しそうに食べてくれたから料理にも気合いが入ったけど、今はやる気がない」と妻が言った。三男は好き嫌いが激しく外遊びの時は買い食いするので夕食が進まない。長女は高校で昼夕の給食を食べてから自習して22時に帰宅する。次男は遅く帰る時は外食と相場が決まっている。長男は体重増加が気になるようでダイエットと称して夕食をスキップすることが多い。俺は胃瘻から栄養を流し込むだけで味わうことは皆無だ。 「もったいないな」と思う。餓狼宴で記した通り妻は「韓国料理の真髄は家庭料理にあり」と思わせるほどの薄味で健康的で美味しい料理を日常的に作れる。であるのに妻の料理に対する子供たちの評価は極めて低い。 妻が野菜中心のメニューを出す、外食に慣れて肉が好きな子供たちは食べない、妻のやる気が低下、子供たちの外食依存度が高くなる、妻が健康に考慮して野菜中心のメニューになる、という悪循環の結果だと分析している。補足すると、韓国の学校給食は日本とは比較にならないほど量が多く肉類も充実しているらしい。俺は大学の学食しか知らないが、それは確かに当たっていると思う。すなわち、子供たちは給食や外食で味の濃い肉類のメニューに満足しているので、妻の薄味メニューとは相性が悪いのだ。 繰り返しになるが「本当にもったいない。宝の持ち腐れだ」と思う。金曜日の夜は「早く寝ろ」と急かされない特別な雰囲気がある。23時に家族全員が揃って、隣の部屋でわいわいガヤガヤと楽しそうに話す声が聞こえる。俺は一人でテレビを見ている。こういう時ばかりは「健康だったら、妻の料理をたらふく食べて満たされた胃袋と心で週末の夜を家族と共に楽しんでいたんだろうな」と思う。ないものねだりは精神衛生上よくないので、来週は家族全員で見ることを提案してみようかな。